コラム columns

2025.07.24

新型コロナ感染症罹患後嗅覚障害① -その原因は-

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、発症初期から嗅覚障害(においがしない・わかりにくい)が出現することが多く、一部では感染後も長期間残存することがあります。新型コロナウイルス感染症が世界中で蔓延する以前より、ウイルス感染後に嗅覚障害を起こす症例はいましたが、新型コロナウイルス感染症が世界中で普通に感染しうる今では嗅覚障害を起こす症例が以前より非常に増加していると思われます。
新型コロナウイルス感染症で嗅覚障害が起きる原因としては、下記のようなものがあります。
 

嗅神経細胞周囲の細胞への感染

嗅覚は、鼻腔の奥にある嗅神経細胞で感じ取られます。この嗅神経細胞の周囲には嗅上皮支持細胞という細胞が囲んでおり、嗅神経細胞が正常に働くための様々な補佐をしていると考えられています。
新型コロナウイルスは、ACE2受容体とTMPRSS2酵素を介して細胞に侵入しますが、これらの受容体は嗅神経細胞には少ないものの、周囲の支持細胞に豊富に存在しています。
そのため、新型コロナウイルスが感染した際に、神経細胞そのものではなく、その周囲の細胞から感染し障害を与え嗅覚障害が起こると考えられています。
 

局所の炎症・腫脹・癒着による嗅覚障害

支持細胞が障害されることで、嗅上皮の構造が乱れたり、神経細胞の働きが抑制されます。炎症が強いと神経細胞まで炎症が到達し神経まで障害を受けてしまいます。
さらに、局所の炎症や腫脹により嗅裂(においが通る空間)が閉塞されると、におい分子が神経に届きにくくなります。
もともと嗅裂の幅は1~3mmしかないため、強い炎症や腫脹により左右の粘膜同士がくっついてしまい癒着を起こすことがあります。癒着を起こすとにおい分子が嗅裂に入って行かないため嗅覚障害が治りにくくなってしまいます。癒着による嗅覚障害では手術による嗅裂の癒着剥離が必要となります。
 

嗅神経の再生遅延

嗅覚神経は通常、数週間〜数ヶ月で再生を繰り返しています。しかし新型コロナウイルス感染症では支持細胞の広範な障害、神経再生に関係する基底細胞の機能低下、慢性炎症の継続などにより、神経再生がうまくいかず嗅覚障害が改善しにくくなってしまいます。
 

中枢神経系への影響

嗅神経細胞周囲で炎症が継続すると、神経が減少し嗅覚の永続的な障害をきたすことが指摘されています。
また、一部の研究ではウイルス感染自体が嗅神経を介して直接中枢に影響を及ぼす可能性が報告されています。

まとめ

今や、新型コロナウイルス感染症は市中にありふれた感染症として珍しい感染症ではなくなっております。しかし、インフルエンザウイルス感染症と違い、感染後長期的・永続的に嗅覚障害をきたす患者様は少なくありません。風邪症状の後は嗅覚の変化などについて今一度ご自身でもご確認いただけると幸いです。