副鼻腔疾患 Sinus disease

副鼻腔とは

鼻内には副鼻腔と呼ばれる骨で囲まれた空洞があります。
副鼻腔は、鼻で息をする際に空気が通るメインストリートである鼻腔の周囲に隣接しており、鼻腔にある中鼻甲介と呼ばれる羽根状の構造物の外側・後方に存在します。
それぞれの副鼻腔は小さな孔(自然口)で他の空間と交通しており、鼻腔を通る空気の加湿や加温、空気ろ過に関係すると言われています。
左右それぞれに篩骨洞、前頭洞、上顎洞、蝶形骨洞の4組の副鼻腔があり、篩骨洞と呼ばれる副鼻腔は蜂の巣のような複雑な構造をしているのが特徴です。
篩骨洞は他の副鼻腔の入り口に位置しており、他の副鼻腔と密接な関係があります。
前頭洞はおでこに、上顎洞は頬の部分に、蝶形骨洞は鼻腔の一番奥深い場所に存在します。

【図1】副鼻腔(正面から見たイラスト)

【図1】副鼻腔(正面から見たイラスト)

  • ①前頭洞
  • ②篩骨洞
  • ③上顎洞
  • ④中鼻甲介
  • ⑤自然口
  • ⑥下鼻甲介
【図2】副鼻腔(横から見たイラスト)

【図2】副鼻腔(横から見たイラスト)

  • ①前頭洞
  • ④中鼻甲介
  • ⑥下鼻甲介
  • ⑦蝶形骨洞
【図3】副鼻腔(副鼻腔CT画像)

【図3】副鼻腔(副鼻腔CT画像)

副鼻腔疾患について

副鼻腔疾患は急性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎、副鼻腔嚢胞(術後性上顎嚢胞)、副鼻腔腫瘍などに分類されます。

急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎の違い

副鼻腔が様々な原因で炎症を起こすと副鼻腔炎という状態になります。
副鼻腔炎には大きく分けて急性と慢性があり、急性は発症から1ヶ月以内のものを指します。
また、3ヶ月以上続く場合は慢性副鼻腔炎と診断され、その原因によって様々な分類に分かれて治療法も変わります。

急性副鼻腔炎

風邪などのウイルス性の鼻炎に続いて細菌感染が副鼻腔に起こると急性副鼻腔炎となります。
急激に副鼻腔内の粘膜が腫れて膿がたまることで、鼻及び頬部の痛み、鼻詰まりや鼻汁、鼻がくさいなどの症状が出現します。頭痛や目の痛みを伴ったり、虫歯がないのに歯が痛くなったりすることもあります。
急性副鼻腔炎が進行すると副鼻腔の周りにある眼や脳に炎症が波及し、視力低下や髄膜炎・脳膿瘍などの重篤な合併症を起こす事があるので早期の治療が重要です。
治療は基本的に薬物治療となります。抗生剤の内服や粘膜の腫脹を軽減するために鼻スプレーを用います。鼻内を吸引・清掃し副鼻腔の入口を拡げ、炎症を下げるお薬を細い粒子として吸入させるネブライザー治療も有効です。程度がひどい場合はステロイドの内服や上顎洞穿刺・洗浄を行うこともあります。

慢性副鼻腔炎

慢性副鼻腔炎は原因によって様々な病態に分類され、それぞれによって治療も変わります。
慢性副鼻腔炎は好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎に分かれ、非好酸球性副鼻腔炎には慢性化膿性副鼻腔炎、副鼻腔真菌症、歯性副鼻腔炎、後鼻孔ポリープなどに分類されます。
好酸球性副鼻腔炎の近似疾患として、アレルギー性真菌性副鼻腔炎があります。

化膿性副鼻腔炎

副鼻腔の中でウイルスや細菌などが感染を起こすと、粘膜が腫れるため小さな空気孔(自然口)が塞がってしまい、膿が外に出られなくなってしまいます。そのため、膿が炎症を起こし、炎症が膿を作る悪循環が生まれ慢性化してしまいます(図4)。こういった副鼻腔炎を化膿性副鼻腔炎と呼びます。
鼻詰まりや膿汁、鼻周囲の鈍痛や頭痛などの症状が現れ、においが分かりにくいなどの症状を認めることもあります。
上記症状に加え内視鏡にて腫れた粘膜と膿汁を認め(図5)、CTにて副鼻腔に陰影があれば(図6)化膿性副鼻腔炎と診断されます。
薬物による治療では、マクロライド系抗生剤を少量、数ヶ月服用する治療法が一般的です。
この治療はマクロライド系抗生剤が持つ抗菌作用ではなく、この薬が持つ炎症の悪循環を抑制する作用や細菌の免疫抵抗性を下げる作用を利用しています。場合により上顎洞穿刺・洗浄を行うことがあります。
薬物治療で改善しない場合、手術療法として内視鏡下鼻内手術の適応となります。
化膿性副鼻腔炎はしっかりと手術すれば再手術に至る症例はかなり少なく、非常に有効な手段と考えます。

【図4】腫れた粘膜と膿汁の副鼻腔イラスト

【図4】腫れた粘膜と膿汁の
副鼻腔イラスト

【図5】腫れた粘膜と膿汁の副鼻腔内視鏡画像

【図5】腫れた粘膜と膿汁の
副鼻腔内視鏡画像

【図6】陰影がある副鼻腔のCT画像

【図6】陰影がある副鼻腔のCT画像

副鼻腔真菌症

鼻や副鼻腔の中に侵入した真菌(カビ)が何らかの原因で外に排出されず、成長して大きな塊になるとやがてカビの塊の周りで炎症が起きます(図7)。
このような副鼻腔炎を副鼻腔真菌症と呼びます。
膿性の鼻汁や頬部痛といった症状が起こります。
副鼻腔真菌症では真菌は副鼻腔の中で塊を作っているだけですが、糖尿病や血液疾患を合併したり免疫機能が低下したりしている患者様では、真菌が眼や脳の中に浸潤し、致死的となるため注意が必要です。
CTにて副鼻腔内に影を認め内部に石灰化による白い部分が混在したり(図8)、副鼻腔周囲の骨が厚くなったりすることが多く、これらの所見があれば比較的診断は容易です。
副鼻腔内を内視鏡で観察すると茶緑の汚いカス状の塊を認めます(図9)。
真菌は細菌ではないので抗生剤投与では完治せず、基本的には手術により真菌の塊を副鼻腔から除去する必要があります。きれいに除去できれば予後は良好な病気です。

【図7】真菌塊が認められる副鼻腔のイラスト

【図7】真菌塊が認められる
副鼻腔のイラスト

【図8】石灰化が認められる副鼻腔CT画像

【図8】石灰化が認められる
副鼻腔CT画像

【図9】真菌塊が認められる副鼻腔の内視鏡画像

【図9】真菌塊が認められる
副鼻腔の内視鏡画像

歯性上顎洞炎

近年若年者の上顎洞は拡大傾向にあり、その分上顎洞周囲の骨が薄くなる傾向にあります。そのため、歯を固定している歯槽骨も近年骨が薄くなり歯根部(歯の根元)が上顎洞に出てきていることも珍しくありません。
上顎洞に突出してしまっている歯根部で虫歯や歯周病が起きると、細菌が上顎洞内に波及し上顎洞内で粘膜が腫れたり膿が溜まったりします(図10)。このような副鼻腔炎を歯性上顎洞炎と呼びます。
この副鼻腔炎は炎症が強い事が多く、上顎洞から周囲の副鼻腔まで炎症が拡がることが多くあります。また、膿性の鼻汁や頭痛、頬部痛、鼻がくさいなどの症状を起こします。
CTにて副鼻腔に陰影を認め、歯根部で骨がなくなっている所見を認めれば診断となります(図11)。
治療は慢性化膿性副鼻腔炎に対する治療に加えて歯科にて歯根部の治療をお願いします。抜歯も有効な事がありますが、抜歯で必ず副鼻腔炎が完治するとは限りません。抜歯は噛み合わせや食事などへの影響が大きく、その適応は慎重にお願いしております。
歯科の先生と相談しながら抜歯の前に鼻内から手術を行い、副鼻腔の交通をつけることで8割以上の患者様で抜歯を回避したまま歯性副鼻腔炎を治せている報告も認めます。詳しくは当院にご相談ください。

【図10】歯根部に虫歯がある副鼻腔のイラスト

【図10】歯根部に虫歯がある
副鼻腔のイラスト

【図11】歯根部で骨がなくなっているCT画像

【図11】歯根部で
骨がなくなっているCT画像

【図12】後鼻孔ポリープのイラスト

【図12】後鼻孔ポリープのイラスト

後鼻孔ポリープ

後鼻孔ポリープは主に上顎洞底面の粘膜が膨らんでポリープとなり、上顎洞から鼻腔に出てきて、のどの方にまで達します。片側性に発生することが多い疾患です。
他の副鼻腔炎ではポリープの中はアロエのようにブヨっとした肉質のものですが、後鼻孔ポリープではポリープの中は液体であることが多く、水風船のように非常に大きくなってしまうことも珍しくありません(図12)。針を刺すと液体が出てきて風船が破けたように小さくなることもあります。
痛みなどはあまり認めませんが、ポリープが非常に大きくなることが多いため、頑固で強い鼻詰まりが起きやすくなります。
内視鏡での鼻内所見とCTにて診断がつくことが多いですが、破けた直後ではポリープが見つからないことがあるので注意が必要です。

副鼻腔嚢胞(術後性上顎嚢胞)

副鼻腔にある小さな空気孔が何らかの原因で塞がると、換気やゴミの排泄ができなくなり内部に膿が溜まって徐々に大きくなっていきます。副鼻腔が袋状になって徐々に大きくなっていく状態を副鼻腔嚢胞と呼びます。

【図13】副鼻腔嚢胞が認められるCT画像

【図13】副鼻腔嚢胞が認められるCT画像

歯や頬、眼の痛みなどの症状が出現し、副鼻腔嚢胞が大きくなると周りの眼球や頬を圧排し、顔が腫れたり、物が二重に見えたり、視力が落ちたりすることもあります。
副鼻腔嚢胞は手術後に起こる事が多く、特に昔行われていた鼻外切開による副鼻腔炎手術のあとで発生することが多いです。この手術では唇の裏を切開し、頬の骨を削り上顎洞の粘膜を全て剥ぎ取っていました。粘膜が一部残ってしまうとその粘膜が嚢胞となり、何十年もかけて徐々に大きくなることで症状を作ります。
過去の手術歴とともにCTにて手術を受けた痕と膜状もしくは骨に囲まれ膨らんだ陰影を認めれば診断はつきます(図13)。
薬物治療にて症状を一旦抑えることは可能ですが、嚢胞自体は治っていないので再度症状を繰り返すことが多いです。その場合は嚢胞を大きく鼻内に開放し、鼻腔と嚢胞を繋げてあげる手術を行います。

副鼻腔腫瘍

副鼻腔良性腫瘍

副鼻腔にも様々な腫瘍ができます。良性腫瘍と悪性腫瘍がありますが、良性で多いのは乳頭腫という腫瘍です。表面がカリフラワーのような形の腫瘍で(図14)、小さいうちは症状がないことも多いですが、大きくなってくると鼻がつまったり鼻血が出たりします。
診断はCTや鼻内の腫瘍を生検して調べることで確定します。場合によりMRIを近くの病院で施行していただき、腫瘍の性状や基部(根っこの部分)などを調べます。乳頭腫の場合はCTにて腫瘍の発生位置で骨の肥厚を認めることも多く(図15)、この所見が乳頭腫の診断や基部の部位判断に非常に役立ちます。内視鏡でも通常の表面がツルッとしたポリープではなく表面がやや凸凹となっていて、血管走行が炎症のものと少し違います(図16)。ただし、通常のポリープと見た目の違いがわかりにくい症例もあり、注意が必要です。
乳頭腫などの腫瘍は薬物治療で腫瘍が消えることはありません。また、乳頭腫の中でも内反性乳頭腫と呼ばれる腫瘍は10年や15年経過するうちに癌化することがあるため、基本的に手術による切除を目指します。近年は内視鏡による鼻内鼻副鼻腔手術が発展しており、鼻の外を切ることなく切除できる症例が増えてきております。

【図14】乳頭腫が認められる副鼻腔のイラスト

【図14】乳頭腫が認められる
副鼻腔のイラスト

【図15】乳頭腫が認められる副鼻腔CT画像

【図15】乳頭腫が認められる
副鼻腔CT画像

【図16】乳頭腫が認められる副鼻腔の内視鏡画像

【図16】乳頭腫が認められる
副鼻腔の内視鏡画像

副鼻腔悪性腫瘍

鼻腔や副鼻腔から発生した悪性腫瘍は、頻度は非常に稀ですが気づかれにくいことも多く、腫瘍が周辺に進展してしまうと、眼や脳に浸潤し様々な神経症状を起こします。扁平上皮癌や悪性リンパ腫、嗅神経芽細胞腫などのいろいろなタイプの腫瘍があります。
内視鏡で観察すると、表面が不整で少し触っただけでも出血したり(易出血性)、悪性腫瘍独特の悪臭を伴ったりすることもあります。また、ポリープとは固さや出血のしやすさが違うため吸引や綿棒で触って気づく時もあります。
悪性腫瘍が疑われた場合、当院外来にてCTを施行し骨の破壊など悪性腫瘍の特徴である所見を調べたり、組織生検を行い悪性腫瘍のタイプ診断を行ったりします。
悪性腫瘍の場合は放射線治療、化学療法、手術などが必要になります。早急に信頼できる提携の医療機関を紹介します。