アレルギー性鼻炎の⼿術 Inferior turbinate surgery

鼻づまりを起こす主な原因

鼻づまりを起こす主な原因に、下鼻甲介の問題が非常に大きく関係しています。よく下鼻甲介の粘膜が肥厚するため鼻がつまると言われますが、近年ただ粘膜が肥厚しているためだけではなく、骨の形態や神経の問題などが隠れていることがわかってきました。
下鼻甲介は鼻腔内にある非常に大きい羽根のような構造物で(図1)、多くの空気に触れることで加温・加湿や空気清浄を行うとともに気流を整える作用があると言われています。羽根の厚さを変化させることで、気流を調整します。
寒いところに行くと鼻がつまってしまうのは、下鼻甲介が厚くなるためです。下鼻甲介が肥厚し鼻腔が狭くなると鼻づまりを起こします。

【図1】下鼻甲介

【図1】下鼻甲介

下鼻甲介は表面が粘膜上皮に覆われ、内部に粘膜下組織と骨があります。粘膜下組織には鼻水を作る腺組織や厚さを調整する容積血管があります。
主にこの粘膜下組織が長期の炎症により次第に厚くなってしまうことで、粘膜が肥厚していきます(図2)。

【図2】粘膜下組織の肥厚

【図2】粘膜下組織の肥厚

しかし、慢性的に鼻づまりを訴える方のCTを見てみると、粘膜はそれほど肥厚しておらず、下鼻甲介の骨が内側に張り出していたり、骨自体が非常に肥厚していたりする所見も多く認めます(図3)。この場合はもともと鼻腔が狭くなっているため、気温変化やアレルギーなどが起因となり、少し粘膜が腫れただけで鼻の通り道が塞がれてしまい、鼻づまりがひどくなってしまうのです。
粘膜が厚いことが原因ではないので薬が効きづらく、問題となる骨の形態を手術で改善させる必要があります。
このように鼻づまりにも色々な要因があり、それらによってどう手術するか考える必要があります。

【図3】粘膜肥厚が原因ではない鼻づまり

【図3】粘膜肥厚が原因ではない鼻づまり

下鼻甲介の手術方法

当院で行っている下鼻甲介の手術には高周波凝固装置による粘膜焼灼術、下鼻甲介粘膜減量術、下鼻甲介粘膜下骨切除術などがあります。
これらの手術にはそれぞれ以下のような効果と問題点があります(表1)。

手術方法 高周波凝固装置による
粘膜焼灼術
下鼻甲介粘膜減量術 下鼻甲介粘膜下骨切除術
手術イメージ 手術イメージ 手術イメージ 手術イメージ
所要時間(両側施行の場合) 5〜10分 10〜20分 20〜40分
手術詳細 アレルギーを起こす下鼻甲介の粘膜上皮を高周波凝固装置にて焼灼する。 Turbinate bladeを用いて粘膜下組織を除去・減量する。 粘膜や粘膜下組織を温存し、下鼻甲介の骨を切除・矯正する。
効果 粘膜上皮を変性させ、粘膜のアレルギー反応を抑制する。小児にも施行可能。 厚い粘膜では減量効果により鼻づまりが改善する。鼻水の減少にも有効。 下鼻甲介骨の形態が改善され鼻づまりが改善する。
問題点 粘膜下組織を直接減量しておらず、変性は戻るため効果や持続時間は限定的。 骨の形態は変えられず、粘膜の厚さが普通の場合には効果が限定的。 粘膜が厚い場合、単独では効果が弱まる場合がある。

※当院で行う下鼻甲介粘膜下骨切除では、形態異常を認める部位の骨のみ一旦切除し、再度骨を戻すこともあります。
下鼻甲介の骨は「庇(ひさし)」のようなものなので取ってしまっても大きな問題にはなりません。

【表1】下鼻甲介の手術方法比較

当院ではこれらの手術を患者様の病態に応じて選択し、鼻中隔矯正術や後鼻神経切断術などと組み合わせて行っています(図4)。

【図4】下鼻甲介の手術前後

【図4】下鼻甲介の手術前後

症例 36歳女性:鼻中隔矯正術、下鼻甲介粘膜下骨切除術、後鼻神経切断術を施行。
治療内容 小さい頃より鼻づまりを自覚し、アレルギー検査にてダニアレルギーを認めた。鼻中隔弯曲症及びアレルギー性鼻炎の診断となり内服や点鼻療法を行うも症状改善せず、局所麻酔下に手術を施行した。
治療期間・回数 1泊2日の入院のもと単回での手術施行。
費用:保険点数 鼻中隔矯正術:8,230点
経鼻腔的翼突管神経切除術:30,460点
3割負担で207,450円(手術費のみ)
ただし高額療養費が適用され、手続きを行うことで窓口でのお支払いが自己負担額までとなります。
リスク 出血、腫脹、疼痛、発熱、血腫、鼻中隔穿孔、鞍鼻

後鼻神経切断術(経鼻腔翼突管神経切除術)

下鼻甲介の粘膜には知覚神経と鼻汁分泌を司る自律神経が分布しています。鼻に入ってきたアレルゲンや刺激に対してこの神経が反応し、反射的に鼻汁の産生やくしゃみをするよう指示を伝えます。このような反応が頻回に長期に起きていると、徐々に神経が過敏化し鼻汁やくしゃみが止まらなくなり、鼻づまりを含め重症化していきます。
一般的な抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬など)を服用しても効果を認めない重症アレルギー性鼻炎や寒暖差アレルギー(血管運動性鼻炎)の場合、下鼻甲介に分布する神経のみを選択的に切断する手術治療が有効です。神経を切るといっても下鼻甲介に分布する神経のみを選択的に切断するので副作用はほとんどないと考えられています。

神経を切断する手術には大きく分けて3つの方法があります(図5)。

【図5】後鼻神経切断術の方法

【図5】後鼻神経切断術の方法

翼突管神経(ビディアン神経)切除術

翼突管神経(ビディアン神経)を直接切断する方法です。
この方法では歯肉を切開する必要があり、涙の分泌神経も同時に切ることになります。ドライアイになる恐れがあるため、あまり行われていません。

中鼻道下方での後鼻神経切断術

翼突管神経(ビディアン神経)が鼻腔内に入ったところで切断する方法です。鼻内から手術が可能で侵襲も大きくありません。
また、涙の分泌神経を切ることがなく、ドライアイの問題がありません。
しかし術後2週間から1ヶ月後に動脈性の出血を起こす可能性が数パーセントあります。

下鼻甲介粘膜下での後鼻神経切断術

翼突管神経(ビディアン神経)を、下鼻甲介の粘膜下で骨に沿って走行している部位で切断する方法です。鼻内から手術が可能で侵襲も大きくなく、ドライアイの問題もありません。この部位では切断した神経が粘膜で覆われるため、術後の出血をほとんど認めません。

当院では下鼻甲介粘膜下骨切除と合わせて下鼻甲介内で後鼻神経切断術を施行し、術後遅発性動脈出血を認めず良好な成績を認めております。
一部の患者様では必要に応じて中鼻道下方にて粘膜弁作成下での後鼻神経切断術を行うこともあります。