難聴、めまい、耳鳴り Hearing loss, Dizziness, Tinnitus

内耳の機能

内耳には、主に音を聴く聴覚とバランスを感じる平衡感覚に関係する器官があります。聴覚は蝸牛という感覚装置により、平衡感覚は半規管や前庭という感覚装置により感知され、脳に情報を伝えています。

【図1】内耳の機能

【図1】内耳の機能

感音性難聴(内耳の難聴)

音を感じる内耳(蝸牛)に問題が起きることで、聞こえが悪くなる病気を感音性難聴と言います。
感音性難聴には大きく分けて突発性難聴と急性低音障害型感音難聴の2つがあります。

どちらの疾患も一側性の難聴を起こすことが多く、耳鳴、めまい、耳閉感などを合併することもあります。これらの疾患は、鼓膜の所見や純音聴力検査にて比較的簡単に診断がつきます。しばしば聴神経腫瘍などが原因の時があり、念のためにMRIで精密検査を行うこともあります。
ただし、腫瘍の精査よりも難聴に対する治療が優先されることが多く、早期の治療が非常に重要となります。難聴や耳閉感などの症状が認めたら1週間以内には受診するようにしましょう。

突発性難聴

突然に内耳の機能が低下し、難聴を起こす病気で原因不明です。
内耳の血流不全やウイルス感染、ストレスなどが原因として考えられていますが、未だよく分かっていません。
聴力は低周波数から高い周波数まで全体的に悪くなることが多いです。

治療について

軽症の場合は神経の伝達に関係するビタミン剤や神経周囲の血流を増加させる循環改善薬を服用します。
中等症以上の方では、早期であればステロイド剤が有効とされます。ステロイド剤を内耳に届けるために通常は内服や点滴により投薬します。一定量のステロイド剤を数日間投与した後に、徐々に減量して投与する漸減療法が一般的です。
突発性難聴では、ステロイド使用時の治療成績は完治が約3割、改善が約3割、不変が約3割とされています。
改善しにくい要素として当院では下記の項目が関係していると考えております。

  • 1週間以上経過してからの治療開始
  • 重症の難聴
  • めまいを伴う
  • 10歳未満、65歳以上
  • 高血圧、糖尿病あり
  • 過度のストレスや睡眠障害

特にこれらの項目のうち3項目以上を認める場合は改善率が非常に悪く、当院では内服や点滴でのステロイド投与後に改善を認めなかった患者様にはステロイド鼓室内注入を積極的に行っております。

急性低音障害型感音難聴

内耳にある前庭(耳石器)、半規管、蝸牛といった平衡・聴力を感じるための器官は、内部に「リンパ液」という水が入っています。リンパ液は内耳で産生され、最後は内リンパ嚢から髄液に流れていきます。
その水の代謝が悪くなると内耳で水が増えすぎてむくんだ状態となります(図2)。この状態を「内リンパ水腫」と呼び、内耳の機能が低下し難聴を認めます。主に低い周波数の難聴が起き、山を登った時のような耳閉感を感じる方もいます。

内リンパ水種の原因としては、不規則な生活、仕事、家庭などのストレスのほか、気候、気圧、気温の変化なども関係し、台風が来るたびに毎回内リンパ水腫を起こす患者様もいらっしゃいます。

【図2】内リンパ液

【図2】内リンパ液

治療について

基本的には突発性難聴と同じように、ビタミン剤、循環改善薬、ステロイド薬による内服及び点滴治療が中心となります。この疾患は内リンパ水腫が原因であるので、これらの治療法に加え利尿薬を用いて溜まった水を尿で出す治療が有効です。
突発性難聴と同じように早期の治療が非常に重要です。早めに受診しましょう。

この難聴は一旦治っても繰り返すことが多いため、その後も慎重な経過観察が重要です。
また、ストレスや不規則な生活習慣が再発に関係するため、再発予防のため生活習慣の改善に取り組んでいきます。
再発を繰り返すうちに難聴の程度が強くなることが多いため、難聴を繰り返す場合は予防として漢方や安定剤を用いた内服治療を長期に行うこともあります。

ステロイド鼓室内注入について

急性の感音性難聴に対する治療として、従来は内服や点滴により血管を介してステロイドを内耳に投与します。しかし、血管から内耳にステロイドが移行しにくいため、内耳にある程度の量を入れるために血管内にかなりのステロイドを投与しているのが現状です。
ステロイド鼓室内投与は鼓膜から髪の毛と同じような太さの針を穿刺し、鼓室(中耳)内にステロイドを投与します。中耳と内耳の間には正円窓と呼ばれる膜があり、この膜が血管に比較してステロイドをかなりの高濃度で移行させるため、非常に少ない量で内耳局所に高濃度のステロイドを投与することが可能です。
当院では内服や点滴によるステロイド投与で効果を認めなかった症例や、合併症などの理由でステロイドの内服・点滴が難しい患者様にステロイド鼓室内投与を行っております。
この治療により従来の治療で改善しなかった患者様の約2割は完治し、約半数は改善となっております。

めまい

めまいとは、身体や視野の平衡(バランス)を保てなくなる状態を指します。実際に立てなくなるぐらいに平衡を保てない状態から、何となくふわふわする感じのものまでめまいに含まれます。

ぐるぐる回るだけがめまいではない

当院が使う「めまい」という症状には、大きく分けて「回転性めまい」、「浮動性めまい」、「失神性めまい」の3つがあります。

回転性めまい 自分自身がぐるぐる回転していたり、周りのものがぐるぐる回転していたりするように感じるめまいです。9割が内耳疾患によるものですが、その他に脳の病気が原因で起こる場合があります。
浮動性めまい 身体がフワフワして、雲の上を歩いているような感じがするめまいです。
脳の病気が原因で起きることもありますが、内耳の病気で急性期を過ぎた時期やその他の病気でも多く認めます。
失神性めまい 目の前が真っ黒になったり意識が遠のく感じがしたりするめまいです。
内耳が原因の場合は、基本的にこのめまいは起きないため、血圧低下や心血管系の病気を考えていきます。

めまいの原因

めまいの原因は、「耳の病気によるもの」、「脳の病気によるもの」、「その他の原因によるもの」の3つに分類できます。

良性発作性頭位めまい症 41.6%
メニエール病 32.4%
前庭神経炎 3.5%
突発性難聴に伴うめまい 1.5%
その他のめまい 19.8%
脳の病気によるめまい 1.2%

【図3】耳鼻咽喉科に受診した方のめまいの原因

良性発作性頭位めまい症

重力や体の向き・傾きを感じる前庭(耳石器)と呼ばれる場所があり、「耳石」と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶がセンサーの上に乗っています。頭を動かすとその耳石が動くことで方向・傾きなどを感じます(図4)。

【図4】耳石の役割

【図4】耳石の役割

何らかのきっかけでその耳石が剥がれ、半規管と呼ばれる体の回転を感知する器官の中に迷い込むことがあります。その石が半規管の中で動くことにより回転を感じるセンサー(クプラ)に誤情報を送ってしまい、めまいを感じます(図5)。

【図5】めまいが起きる原因

【図5】めまいが起きる原因

良性発作性頭位めまい症の特徴

  • 朝起きた時に数秒から数十秒ほどの回転性のめまいが起こる
  • じっとしていると治るが頭を動かすとめまいを繰り返す
  • 朝や夜にめまいを起こすことが多いが日中は少なくなる
  • 交通事故や怪我の後に起こすことがある
  • 閉経後の女性に多い
  • 難聴などの聞こえの症状を伴わない

治療について

耳石が中で浮いているために起こる、平均2〜3週間で治る半規管型と、耳石がクプラに接着しているために起こり、治療に平均2〜3ヶ月かかるクプラ型の2タイプがあります。
どちらも予後は良好で自然治癒していきます。めまいを感じる間は症状を抑えるお薬を服用し、頭や体を動かして耳石を元に戻す耳石置換法を行います。

1年で3割、3年で5割程度の患者様が再発すると言われています。
予防として就寝時の頭位変換体操や意識的に寝返りを行うことが有効とされています。

メニエール病

急性低音障害型感音難聴のところで述べた「内リンパ水腫」により内耳の平衡機能が低下し、回転性のめまいや浮動性のめまいが生じます。

メニエール病の特徴

  • 環境変化、気候変化、睡眠不足などのストレスが深く影響
  • 回転性のめまいが10分〜数時間続く
  • 難聴や耳鳴りを伴うことがある
  • じっとしていてもすぐに治らない
  • 何度も繰り返し、ある時突然めまいが出現する

治療について

急激に回転性めまいが出現している発作時には、安静にすることが重要です。状況によりめまい止めの薬や鎮静剤を点滴することもあります。
また、内リンパ水腫の改善のために浸透圧利尿薬を服用したりステロイドを服用したりして徐々にめまいを改善させていきます。

基本的に平衡を感じるセンサー自体が障害を受けるため、障害の程度によってはすぐに完治することが難しいことがあります。そういった場合にめまい症状を完治させるためにリハビリとしてめまい体操を行う必要があります。
当院では症状や所見により最適なリハビリ方法を看護師とともに指導しております。

前庭神経炎

平衡(バランス)を感じる前庭(耳石器)や半規管からの信号を脳に伝える前庭神経が炎症を起こすことでめまいが起きる病気です。

前庭神経炎の特徴

  • 突然回転性の激しいめまいが起こる
  • 風邪やウイルス感染の数日後に発症
  • 数日はベッドから起き上がれないほどにめまいが起きるが、その後は徐々に症状が軽くなる
  • 症状がなくなるまでにかなりの時間を要することが多く、半年以上かかる方も多く存在する
  • 内服だけでは完全に症状が消えず、平衡訓練などのリハビリも重要

治療について

めまいや嘔気を抑える鎮静剤や制吐薬を服用します。また、神経の炎症を抑えるためにステロイド剤の投与も行います。
発症直後は激しいめまいにより経口摂取ができない方もいます。その場合はこれらのお薬を点滴で投与します。
しばらくして回転性めまいが収まってきても、フワフワしためまい感がずっと続きます。

神経は一度炎症を起こすと100%は回復しにくく、平衡(バランス)の情報伝達に左右差が生じるためです。脳内にはこれらの左右差を調整する前庭代償という機能があるため、平衡訓練を行い前庭代償を用いてリハビリテーションを図ります。

起立性調節障害

以前は起立性低血圧と呼ばれていた疾患です。自律神経の働きが未発達もしくは低下しているために、起立時に身体や脳への血流が低下し様々な症状を起こします。

起立性調節障害の特徴

  • 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
  • 急に立ち上がったりすると気持ち悪くなり倒れる事もある
  • 入浴時や嫌なことを見聞きすると気分が悪くなる
  • 朝に症状が出やすいため、なかなか起きられず登校や出勤に影響が出る
  • 食欲不振や倦怠感、頭痛などが出現しやすい
  • 乗り物酔いしやすい

起立性調節障害には以下の4つのタイプがあります。

1. 起立直後性低血圧

起立直後に血圧低下が起こり、回復に時間がかかるタイプ。

2. 体位性頻脈症候群

起立後の血圧低下はなく、心拍数が異常に増加するタイプ。

3. 血管迷走神経性失神

起立中に急激な血圧低下が起こり、失神するタイプ。

4. 遷延性起立性低血圧

起立直後は問題ないが、時間とともに徐々に血圧が低下するタイプ。

治療について

まずは起立試験などを行い上記のどのタイプかを判定します。

そして、生活習慣の指導や食事療法によって改善を試みます。
水分・塩分の十分な摂取や高蛋白、高ミネラルの食事、水泳などの全身運動、ストレッチなどの指導に加え、季節によってはタイツや弾性ストッキングによる下肢血流滞留の防止措置などの提案をいたします。
これらの治療にても改善しない場合は昇圧剤や漢方の服用を行います。

耳鳴り

耳鳴りの原因

以前では耳鳴は内耳由来の音であると言われていましたが、脳科学の研究が進むにつれて、最近は中枢由来の音ではないかと言われています。
元々普通の人でも耳鳴りは聴こえていますが、普段の生活音の中で脳が無視している状態となっています。自分の心臓や筋肉の動く音などを全く気にせず生活できているのと同じです。

我々は脳の中の側頭葉聴覚野という部分で音を知覚しています。その際、特定の周波数の音にだけ反応する神経細胞がそれぞれの周波数の音を感じています。
内耳である周波数の音が入りにくくなると、その周波数を知覚する神経細胞に電気信号が流れなくなります。そうすると、逆にその神経細胞が勝手に興奮し本来聞こえないはずの音、すなわち耳鳴が発生します。神経細胞が勝手に興奮しているため、脳はそれを無視することができず気になってしまい、不安やイライラと結びつくといった悪循環となり耳鳴が辛くなると考えられています。

また無難聴性耳鳴と言って、難聴がないにも関わらず耳鳴りに苦しんでいる方もいらっしゃいます。まだまだ、謎が多い病気です。

治療について

耳鳴の治療法としては大きく分けて3つの方法があります。

  • 音が入らなくなったために耳鳴りが発生している場合、補聴器によって音を足してあげることで、耳鳴りが出始める前の状態にできる限り脳を戻してあげます。難聴がある程度進行している患者様では、補聴器を継続してつけることで耳鳴が軽減される可能性があります。
  • 現在のところ耳鳴りをゼロにすることのできる薬は存在しません。しかし、耳鳴りを軽減できるお薬は何種類か存在し、それらを順次試していきます。耳鳴りが軽減できているお薬が見つかれば、長期に服用することで徐々に脳が耳鳴を無視できるようになることがあります。
    お薬の種類として、脳代謝賦活剤や漢方、一部の抗てんかん薬や安定剤で効果を認めることがあります。
  • 見た目は補聴器ですが、エアコンや川のせせらぎ音のような意識しない音を出す機器を耳に装着し、耳鳴りのような不快な音を順応させる治療があります。Tinnitus Retraining Therapy(TRT)と言います。
    当院では試験的に無料で半年間装着し、その期間耳鳴が軽減されていれば購入してそのまま使用してもらいます。
    装着していることで、そのうち耳鳴り自体が気にならなくなり、装着自体を必要としなくなる方もいます。