アレルギー性鼻炎 Allergic rhinitis

アレルギー性鼻炎とは

アレルギー性鼻炎とは、透明のサラサラした鼻水、鼻づまり、くしゃみの3つを主症状とするアレルギー疾患です。
アレルギー性鼻炎には、スギなどのように毎年同じ季節に起こる「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」と、ダニなどのように季節に関係なく年間通して起こる「通年性アレルギー性鼻炎」があります。
また、近似疾患として気温や気候変化に反応して起こる「血管運動性鼻炎(寒暖差アレルギー)」もあります。

アレルギー性鼻炎の原因・メカニズム

近年アレルギー性鼻炎の原因や機序についてはかなり研究が進んでいます。

免疫寛容

もともと、動物は様々な食物(異物)を口に入れ、体内にエネルギーとして消化・吸収しています。
これらに免疫反応が起きてしまうと、体内に取り込んでも異物反応が起きてしまい栄養を取れなくなってしまいます。そのため、口から入れた異物に関しては、ウイルスや細菌のようによっぽど攻撃的なものでなければ免疫反応は起きないよう制御されています。
こういった制御は免疫寛容と呼ばれています。

アレルギーと抗原(アレルゲン)

しかし、口から入れても異物反応が起きないものでも、傷ついた皮膚や粘膜から体内に侵入すると異物と認識されてしまうことがあります。
一旦異物と認識されると、同じものを口から入れてもその異物を排除しようと異常な免疫反応を起こすようになります。
この異常な免疫反応をアレルギーと呼び、アレルギーの原因となるタンパク質成分を抗原(アレルゲン)と呼びます。

アレルギー反応

アレルギーになると、その抗原(アレルゲン)だけにアレルギー反応を誘導するIgE抗体というタンパク質が作られます。
このIgE抗体はマスト細胞などアレルギー反応を起こす細胞の表面に結合し、抗原を捕まえるとヒスタミンやロイコトリエンといった強力な化学伝達物質を放出させます。これらの化学伝達物質は血管を拡張させ鼻づまりを起こしたり、知覚神経を刺激しくしゃみを引き起こしたりします。
また、翼突管神経などの分泌神経系を興奮させサラサラした鼻水が止まらなくなります。これらはアレルゲンを吸い込んでから15分~30分くらいで起きますが、好酸球という細胞が動き出すと鼻づまりを中心に翌日以降にも影響を及ぼし悪循環となります。

【図1】IgE抗体やマスト細胞によるアレルギー反応

【図1】IgE抗体やマスト細胞によるアレルギー反応

アトピー体質について

アレルギー性のいろいろな病気(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息など)になりやすい体質をアトピー体質と言います。
血液中の総IgE値が非常に高いのが特徴です。
アレルギーを誘導するIgE抗体がたくさん作られることで、将来的にアレルギーの程度がひどくなったり、アレルギーの原因(抗原)の種類が増えていったりする可能性があります。アトピー体質の方に対するスキンケアや食事の指導は重要で、当院でも指導を行っております。

アレルギー性鼻炎の症状について

アレルギー性鼻炎には主症状と副症状があります。

主症状

くしゃみ、鼻水、鼻づまり

副症状

目の痒み、鼻のむずむず、頭重感、咳、のどの痒み、湿疹、胃腸障害、睡眠障害

くしゃみは一旦起こると連続して起こり、かなり体力を消耗します。
また、アレルギー性鼻炎の鼻水はサラサラで頻繁に鼻をかむ必要が生じます。これらにより勉強や仕事、家事に集中できなくなり、イライラなど日常生活への支障が強いのも特徴です。
アレルギー性鼻炎では鼻水の量とくしゃみの程度は比例します。そのため、風邪の初期でなければ、くしゃみを伴うサラサラの鼻水はアレルギーによる症状を考えます。
アレルギー性鼻炎は睡眠にも強い悪影響を及ぼします。鼻づまりや鼻水により睡眠の質や量が悪化し、睡眠の悪化が日中の眠気や倦怠感など日常生活への悪影響を及ぼします。
鼻はもともと加湿・加温・空気清浄の機能があると言われています。
通年性アレルギーでは慢性的に鼻づまりが生じ、口呼吸となってしまいます。
口呼吸では加湿・加温・空気清浄の機能はないため、のどが傷つきやすくなり感染症のリスクが高まります。

アレルギー性鼻炎の所見

アレルギー性鼻炎では主に下鼻甲介と言われる部位が蒼白になりブヨブヨに水っぽく腫れてきます。下鼻甲介が腫れることで鼻の通り道が狭くなり鼻づまりが起きます。(図2、3)

【図2】好酸球性副鼻腔炎のイラスト

【図2】好酸球性副鼻腔炎のイラスト

【図3】好酸球性副鼻腔炎の鼻内所見

【図3】好酸球性副鼻腔炎の鼻内所見

正常な鼻腔の所見について

アレルギー性鼻炎の診断について

当院では診断にあたり、まずは丁寧な問診と鼻内視鏡検査、血液検査を行い、必要に応じて鼻汁好酸球検査や皮膚テストも行います。
血液検査ではアレルゲン特異的IgE値とともに、血中の好酸球数や総IgE値なども調べていきます。アレルギー性鼻炎特有の症状と所見があり、血液検査にて症状に一致するアレルゲン特異的IgE値が陽性であれば診断となります。
また、血中の好酸球数が高い場合は好酸球性炎症(喘息や副鼻腔炎)の可能性について検討を行い、総IgE値が高い場合はアトピー体質についての説明も行っております。

アレルギー性鼻炎に対する保存的治療

アレルギー性鼻炎の治療で最も大切なことの一つに、原因となる抗原(アレルゲン)を近づけないというものがあります。
アレルギー性鼻炎では抗原が鼻内に侵入しない限りアレルギー反応は起きません。そのため、発症の予防に抗原回避は非常に有効です。
以下にダニの抗原回避方法6つを示します。
ポイントは一つのみ実施するのではなく複数実施することです。掃除をしても空気中のダニ抗原は吸い取れず、空気清浄機をかけても床に落ちているダニ抗原は吸着できません。いろいろな予防を組み合わせて初めてダニアレルギーの予防が可能になります。

ダニの抗原回避方法6

  • 布団や部屋の清掃

    布団や部屋の清掃

    週に2回以上は掃除を

  • 空気清浄機の使用

    空気清浄機の使用

    HEPAフィルターのついているもの

  • 室内の温度や湿度の調整

    室内の温度や温度の調整

    温度は26℃、湿度は50%台に

  • 布製のソファーや畳を避ける

    布製のソファーや畳を避ける

    ダニが繁殖しやすくなる

  • 防ダニの布団カバーの使用

    防ダニの布団カバーの使用

    ダニが入ってこない布団へ

  • 規則正しい生活

    規則正しい生活

    生活が乱れるとアレルギーも悪化

薬物療法

アレルギー性鼻炎を発症した場合に最初に行う治療です。
当院で使っている薬物療法としては以下のものがあります。

抗ヒスタミン薬

アレルギー性鼻炎に対する治療薬として最も使われているお薬であり、たくさんの製剤が出ています。
以前の抗ヒスタミン薬では効果発現に時間がかかり、眠気やだるさなど副作用も多くありましたが、最近では1時間程度で効果が発現し、眠気などの副作用も少ない製剤が出ています。
また、経口だけでなく貼るタイプの薬剤や、鼻閉に対して強い作用をもつプソイドエフェドリン配合ヒスタミン薬などもあります。
抗ヒスタミン薬はそれぞれの薬剤で特徴、長所、短所などに違いがあります。その違いにより患者様の症状や程度によって合うお薬や合わないお薬があります。
副院長は長年アレルギー性鼻炎の診療にも携わり、抗アレルギー薬の使い方に精通しております。
アレルギーのお薬を飲んでもなかなか効果を感じない方は当院にお気軽にご相談ください。

抗ロイコトリエン薬

血管を拡張させ鼻粘膜を腫れさせることで主に鼻づまりを起こすロイコトリエンという化学伝達物質の作用を抑える薬剤です。
鼻づまりがひどいアレルギーの方に特に有効です。

鼻噴霧用ステロイド薬

鼻粘膜局所に噴霧し、アレルギー性炎症を最も良く抑えてくれるステロイド剤が入っています。
ステロイドというと副作用を気にされる方も多いですが、喘息の患者様が使用している吸入薬と同じ非吸収型ステロイドが入っており、経口ステロイドと違って全身に吸収されにくく副作用も少ないため長期で使用することができます。

血管収縮剤

市販の点鼻薬によく含まれていますが、医薬品にもあります。
原則として血管収縮剤は症状が非常に強い時など、いざという時に使用する薬剤です。連用すると点鼻薬性鼻炎を発症するため注意が必要です。

経口ステロイド薬

上記薬剤の使用でも全く症状が緩和しない時に、緊急的に使用することがあります。
ステロイドは非常に抗アレルギー作用が強いですが、長期に使用すると全身性の副作用が出現する可能性もあり、患者様の年齢や基礎疾患なども考慮して使用する必要があります。

アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)

体にアレルギーを起こす物質(アレルゲン)を体内に徐々に投与し、長期に続けることでアレルギーを抑える働きが強くなり、アレルギーの症状が出にくくなります。
この治療をアレルゲン免疫療法と言います。
以前は皮下に注射して行う皮下免疫療法が中心でしたが、痛みや頻回の通院などが原因で施行数がかなり減少しております。
舌の下に2分ほど薬剤を入れておくだけの舌下免疫療法が2015年から登場しました。
舌下免疫療法は自宅で服用が可能で注射のような痛みがなく、副反応が非常に少ないのが特徴です。
現在ではダニとスギに対する舌下免疫療法があります。

当院では薬物治療や手術治療とともにアレルギーの体質を変えうる治療として積極的に取り組んでいます。
ダニやスギによるくしゃみや鼻水などの症状が強く、薬物治療だけでは症状がうまくコントロールできない方には特に有効と考えております。
ただし、慢性的な鼻づまりに関しては鼻中隔弯曲や骨の肥厚、張り出しなどの形態的な異常を合併していることも多く、CCTなどの画像検査も行いながら手術との併用なども考慮する必要があります。

アレルギー性鼻炎に対する手術治療

アレルギー性鼻炎は体質的な病気であり、手術のみで完全に根治できるものではありません。
しかし、薬剤やアレルゲン免疫療法(経口舌下療法)にしても全ての患者様を根治できるものではなく、アレルギー症状が起こりにくい鼻に変えるという意味では手術も非常に有効な手段と考えます。
近年アレルギー性鼻炎に対する手術は様々な術式が開発されています。
それぞれの術式によりアレルギー性鼻炎を抑える機序が異なり、患者様の症状やアレルギーの状態を見ながら最適な手術方式を組み合わせて行います。
当院では、年間100例以上の症例にこれらアレルギー性鼻炎の手術を短期滞在手術で行っております。

アレルギー性鼻炎に対する手術治療

その他のアレルギーについて

寒暖差アレルギーについて

アレルギー性鼻炎と同じような症状を認める疾患に寒暖差アレルギーがあります。気温差やご自身の体温変化、自律神経の変動などに反応し、鼻水、くしゃみ、鼻づまりなどを起こします。温度差が8度を超えると症状が現れやすい傾向があります。

当院ではこの疾患には2つのタイプがあると考えております。
一つはダニなどの通年性アレルギー性鼻炎の患者様で日々アレルゲンによる刺激を受けるうちに自律神経系が影響され気温差などに過敏に反応してしまうタイプです。
もう一つは純粋な寒暖差アレルギーで医学的には血管運動性鼻炎と呼ばれ、アレルギー検査を行っても特定のアレルゲンを認めないタイプです。
いずれにしても、通常の抗アレルギー薬では効果が出にくいことが多く、患者様の症状によって薬剤を工夫して使うことで症状を緩和することができます。
鼻噴霧用ステロイド薬も効果がありますが、毎日噴霧することで症状が出にくくするといった使い方になります。
薬剤でのコントロールが難しい患者様では後鼻神経切断術という手術なども有効性が報告されております。詳しくは当院副院長にご相談ください。

点鼻薬性鼻炎について

血管を収縮させる血管収縮薬が配合された点鼻薬は、即効性があり鼻づまりを改善させる力が強いのが特徴です。
市販の点鼻薬に多く、その効果の良さから長期連用や多用につながる患者様も少なくありません。
これらの点鼻薬は常用により逆に粘膜が腫れてくるため、薬の効果が切れると鼻づまりの症状がよりひどくなります。また、薬の効果が段々と短くなるのも特徴です。
当院では点鼻薬性鼻炎の患者様に対して長期連用となった原因などについて精査を行い、患者様の原因に合わせた治療法を行っております。