副鼻腔手術 Sinus surgery

副鼻腔の手術治療について

鼻の孔から内視鏡と特殊な手術器具を挿入し、外を切らずに副鼻腔の病変をきれいにする手術です。手術により副鼻腔が本来持っている空気清浄機、加湿器、加温器としての機能を取り戻します。
副鼻腔は壁に囲まれた小さな部屋が並んでいる構造であり、それぞれの部屋に出入り口もあります。また、部屋同士をつなげる通路も持っています。例えると、片方の副鼻腔だけでも大きな部屋と小部屋を合わせた8~15LDKのマンションのような構造です(図1)。

【図1】副鼻腔の構造

【図1】副鼻腔の構造

副鼻腔(*)はマンションのように、小さな部屋と部屋同士をつなげる通路で構成されている。

感染やアレルギーなどによる炎症が持続し、副鼻腔の粘膜が腫れたりポリープができたりすると、副鼻腔の出入り口が閉塞してしまい炎症性の分泌液を外に出せなくなります。
出られなくなった炎症性の分泌液はさらに炎症を起こし、その悪循環で病気が治らなくなってしまいます(図2)。

【図2】副鼻腔内の炎症

【図2】副鼻腔内の炎症

手術では、出入り口が閉塞してしまった副鼻腔の壁を取り払い一つの大きな副鼻腔にする(単洞化)ことで悪循環をなくし、病態を改善させていきます。マンションの部屋を取り払って1LDKの大きな部屋にリノベーションして大掃除するようなイメージです(図3,4,5)。

【図3】副鼻腔炎の手術イメージ

【図3】副鼻腔炎の手術イメージ

閉鎖してしまった副鼻腔の壁を鉗子で取り払っていく。

【図4】副鼻腔の手術前後

【図4】副鼻腔の手術前後

  • a 術前の副鼻腔CT。
    副鼻腔内は灰色(炎症)で埋まっている。
  • b 術後の副鼻腔CT。
    手術により副鼻腔は開放され、黒色(正常)となっている。
症例 33歳男性:鼻中隔矯正術、両側内視鏡下鼻内手術、下鼻甲介粘膜下骨切除を施行。
治療内容 数年前から鼻づまり、嗅覚障害、及び後鼻漏が出現し、当院にて好酸球性副鼻腔炎と診断された。保存的治療にて症状が十分にコントロールできず手術治療を行った。
治療期間・回数 2泊3日の入院のもと単回での手術施行。
費用:保険点数 鼻中隔矯正術:8,230点
内視鏡下鼻副鼻腔手術Ⅳ型:32,080点
下鼻甲介粘膜下骨切除6,620点
ただし高額療養費が適用され、手続きを行うことで窓口でのお支払いが自己負担額までとなります。
リスク 出血、腫脹、疼痛、発熱、血腫、鼻中隔穿孔、鞍鼻、眼窩内・頭蓋内合併症
【図5】手術後の副鼻腔とリノベーションイメージ

【図5】手術後の副鼻腔とリノベーションイメージ

手術によって副鼻腔が開放され、全ての副鼻腔が一つの大きな空間(単洞化)となっている。
マンションでいうところの間取りを広げたリノベーションのようである。

【図6】内視鏡画面とCT画像を使用した手術

【図6】内視鏡画面とCT画像を使用した手術

KARL STORZ社製の高精細内視鏡システム及びCT画像。
CTは清潔下に画像を動かすことができ、現在手術している部位の位置確認やプランニングを行っている。

副鼻腔の周辺には脳や眼といった重要な臓器が接しており、非常に高度な内視鏡手術の技術と様々な特殊機材を要します。
当院では内視鏡下副鼻腔手術を短期滞在で安全に提供できるよう、KARL STORZ社製の高精細ハイビジョン画像の内視鏡及び術中清潔下に操作可能なCT画像装置を備えています。内視鏡画面とCT画像を並列に置き、手術部位と解剖学的な位置合わせをしながら手術を行います(図6)。

また、ポリープや切除組織を吸引しながら掃除できるデブリッダーや、複雑な副鼻腔の奥まで届く様々な慈恵医大式の副鼻腔手術用鉗子を用意しております(図7)。

【図7】副鼻腔手術に用いられる様々な器械類

【図7】副鼻腔手術に用いられる様々な器械類

デブリッダー及び慈恵医大式鉗子類。様々な鉗子が複数用意されている。

慈恵医大式ESSは、およそ100年前に内視鏡が開発される以前から鼻内による副鼻腔手術の理論体系が研究され続け、現在は内視鏡の導入に伴って明視下により安全に手術を行うことができるようなってきました。副鼻腔を単洞化することで生理的に改善させることを目的とし、その手術理論(術式)はかなり洗練されていると考えております。

副院長の手術実績

当院副院長の大櫛哲史医師は長年慈恵医大附属病院を中心に慈恵医大式内視鏡下鼻副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery: ESS)の継承、発展及び指導に長年携わり、総手術症例数も約5,000件の実績があります。現在も他大学への手術指導やインストラクターを行っております(図8)。

また、大櫛は手術以外にも「術中の疼痛を最小化するための局所麻酔法及び麻酔針の研究」、「手術後の止血、創傷治癒促進、及び癒着防止を目的としたパッキング資材の研究」にも携わってきました。これらの経験及び資材を当院でも活用し、患者様に負担の少ない手術治療を心がけております。術後は基本的にガーゼを詰めることはせず、鼻内洗浄で自然と排泄される止血剤や抜去時の疼痛が少ないパッキング素材を用いております。

【図8】大櫛が長年インストラクターを務めている独協医大内視鏡手術研修会

【図8】大櫛が長年インストラクターを務めている独協医大内視鏡手術研修会

嗅覚障害に対する手術について

【図9】好酸球性副鼻腔炎の手術前後

【図9】好酸球性副鼻腔炎の手術前後

上段が術前、下段が術後の右嗅裂の内視鏡映像及びCT所見。
癒着で閉塞していた嗅裂が術後きれいに開放されている。嗅覚も正常に回復した。

症例 42歳女性:両側内視鏡下鼻内手術を施行。
治療内容 新型コロナ感染症罹患後より嗅覚障害が改善せず、静脈性嗅覚検査では正常範囲内であった。保存的治療を行うも改善を認めず手術にて嗅裂の癒着を剥離し開大したところ、術後嗅裂は拡がり嗅覚も改善を示した。
治療期間・回数 2泊3日の入院にて単回での手術
費用:保険点数 内視鏡下鼻副鼻腔手術Ⅲ型:24910点(片側)
ただし高額医療費が適応され、手続きを行うことで窓口でのお支払いが自己負担額までとなります。
リスク 出血、疼痛、発熱、眼科内・頭蓋内合併症

近年新型コロナウイルスの蔓延や好酸球性副鼻腔炎の増加などもあり、嗅覚障害を訴える患者様が増加しております。
嗅裂(においの神経が分布する隙間)での炎症を嗅裂炎と呼び、ウイルス性炎症の患者様ではにおいを感じる嗅粘膜同士が癒着を起こし嗅裂が塞がっている方も多く認めます。嗅粘膜が全面的に癒着している方は少なく、島状に複数箇所で癒着している方が多いため、嗅覚検査にて神経が残っている場合は手術によりにおいを改善させることが可能です(図9)。
好酸球性副鼻腔炎の患者様は嗅裂にポリープができることでにおいがわからなくなり、長く放っておくと神経自体も障害が進んでしまい回復できなくなってしまいます。静脈性嗅覚検査の結果が悪化している場合は早めの手術をお勧めします。

Endoscopic Modified Medial Maxillectomy: EMMM

上顎洞の前端部に病変がある場合、通常のESSでは視野が取れず器械が届かなかいことがあり、以前は口腔内に切開を入れ頬部の骨を削開する必要がありました。この問題に対し、大櫛と慈恵医大耳鼻咽喉科の複数の医師により新しい手技が開発されました。これにより、上顎洞前端部の病変をより低侵襲に生理的な機能を温存して鼻内から手術することが可能となりました。この手技は、EMMMと名付けられ、現在は国内外で使用されています。
現在当院でもこの手技が用いられており、乳頭腫などの良性腫瘍や一部の炎症性疾患、嚢胞疾患の手術に応用されています(図10)。

【図10】EMMMの手術理念

【図10】EMMMの手術理念

涙の通り道である鼻涙管や下鼻甲介といった必要な構造物を残して上顎洞内を操作できる。