コラム columns
当院では急性難聴の症例に対しステロイド鼓室内投与を行っています。
ステロイドは①抗炎症作用、②血流改善、③抗酸化作用、④内耳電位(イオンバランス)の安定化などにより内耳難聴を改善させます。
では、鼓膜から中耳に注入したステロイドがどうして内耳難聴を改善させるでしょうか?
これには、さまざま理由が考えられます。
膜透過性による薬剤の移行システム
内耳の蝸牛と中耳の間には、薄い膜で隔てらた場所があります。この膜が薬剤を通過させることがわかっています。特にこの膜は脂溶性のものを通しやすく、一部のステロイドは脂溶性があり分子量が小さいため膜を通りやすいとされています。
血液内耳関門を回避
ステロイドの点滴治療などでは、ステロイドは血管を介して内耳に移行して難聴を改善させます。しかし、内耳と血管の間には「血液内耳関門」と呼ばれる関所みたいなものが存在し、血管からの薬剤の移行を制限してしまいます。そのため、点滴治療では非常に高容量のステロイドを投与するにも関わらず少量のステロイドしか内耳に入らないといった問題がありました。
ステロイド鼓室内投与ではこの関門を迂回してステロイドを内耳に移行できるため高容量のステロイドを内耳に浸透させることが可能です。
諸家の報告では、ステロイド鼓室内投与での内耳への移行濃度は点滴に比べ、24.7倍〜189.6倍と高いことが明らかになっています。
また、ステロイドは蝸牛の奥深くの神経節まで浸透していることが分かっています。
副作用が少ない
ステロイド自体は長時間に高容量の投与を続けることでさまざまな副作用を生じる可能性のある薬剤ですが、鼓室内投与では全身にステロイドがほとんど移行しないため大きなトラブルが起きにくく、治療が継続しやすいといったことも挙げられます。
まとめ
当院でもステロイド鼓室内投与を行った患者様は300名を超えています。難聴は、全員を完全に治すことが難しい病気ですが、鼓室内投与により聴力を戻せた患者様も多く経験しております。詳しくは院長にご相談くださいませ。