口腔とのどの疾患 Oral disease and Throat disease

正常なのど・口腔および声帯について

のどは一般的に咽頭と呼ばれる部分と喉頭と呼ばれる部分に分かれ、咽頭は上・中・下の3つに分かれます。
のどに何らかの症状があって病院を受診すると、「口をアーンと開けて見せてください」と言われます。
しかし、口の中から見えるのどの部分は中咽頭の一部であり、のどのほとんどは耳鼻咽喉科医が内視鏡を用いないと見えません。
のどは耳鼻咽喉科医でなければ分からない難しい部位とも言えます。

【図1】咽頭と喉頭の側面図

【図1】咽頭と喉頭の側面図

【図2】口腔内のイラスト

【図2】口腔内のイラスト

【図3】喉頭の内視鏡画像

【図3】喉頭の内視鏡画像

のどの病気

急性咽喉頭炎

いわゆる「のど風邪」とよばれるもので、ウイルス感染が主体の場合が多いです。後に細菌感染を合併することもあります。
喉の痛み、発熱、頭痛、倦怠感、鼻汁、咳を認めます。最初の2、3日はくしゃみや鼻水のみでアレルギーと区別が難しい場合もありますが、それ以降ではのどの所見で大体判断が可能です。

治療について

炎症を抑えるお薬や痛み、発熱、咳などの症状を抑えるお薬を処方します。細菌感染を認める場合は抗生剤を処方することもあります。また、ネブライザー治療はのど症状の緩和にかなり有効で、外来での処置後にネブライザーを行います。小児で咳などの症状がひどい場合には当院の携帯ネブライザーをお貸しすることも可能です。

【図4】急性喉頭炎

【図4】急性喉頭炎

急性喉頭炎

喉頭のみに局所的に炎症を起こすと、発熱やのどの痛みが軽微で声のかすれや咳のみが出現することがあります。発作性の咳が夜間を中心にひどくなる場合があり、咳喘息と呼ばれる状態になることがあります。喉頭ファイバーにて喉頭の発赤を認めることで診断がつきます。

治療について

炎症を抑えるお薬とともに咳を抑えるお薬を数種類併用処方します。場合によっては吸入薬を用いることもあります。

【図5】急性喉頭蓋炎

【図5】急性喉頭蓋炎

急性喉頭蓋炎

嚥下時に気管の入り口を塞ぐ喉頭蓋と呼ばれる部位が腫れると、嚥下時の痛みや嚥下困難感が出現し最悪呼吸ができず死亡するケースもあります。口からではこの部位は観察できないため、発見が遅れることがあり注意が必要です。嚥下時の強い痛み、呼吸苦を感じる場合は早期に耳鼻科を受診していただくことで、喉頭ファイバーにて診断がつきます。

治療について

抗生剤やステロイドの点滴を行います。気道が閉塞しそうな場合は、総合病院などに搬送となります。当院では緊急時の気道確保用に輪状甲状膜穿刺キットであるクイックトラックを常備しています。

【図6】急性扁桃炎

【図6】急性扁桃炎

急性扁桃炎

口蓋垂(のどちんこ)の両脇にある扁桃腺と呼ばれる組織が炎症を起こし、腫れてしまう病気です。急性扁桃炎にはウイルス感染で起こる伝染性単核球症と細菌感染で起こる化膿性扁桃炎があります。
伝染性単核球症について

治療について

化膿性扁桃炎では細菌に効果のある適切な抗生剤を内服もしくは点滴します。扁桃腺周囲の腫脹が激しい場合はステロイドの点滴を追加して行うこともあります。

【図7】扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍

【図7】扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍

扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍

化膿性扁桃炎が治療されずに悪化すると細菌感染が扁桃腺より深いところに拡がります。この状態を扁桃周囲炎と言います。のどの腫れによって、嚥下時ののどの痛みが強くなります。さらに進行すると、扁桃腺より深いところに膿がたまり、口が開けにくくなり、激しい痛みで食事ができなくなります。多くは片側で起きます。

治療について

抗生剤や炎症を抑えるステロイドなどを点滴します。膿が溜まっている場合は局所麻酔下に口の中を切開し膿を外に出す必要があります。放っておくと首の中に膿が回り、最後は肺や心臓の周りまで膿が拡がっていくことがあり、早期の治療が重要です。

伝染性単核球症

EBウイルスは通常幼い頃に感染し軽い風邪の症状で済んでしまうこと(不顕性感染)が多いのですが、大人になって初めてこのウイルスに感染すると急性扁桃炎を起こすことがあります。扁桃腺の腫れや白苔の付着とともに、発熱、頸部のリンパ節腫脹、肝機能障害や肝脾腫などを合併することがあります。

治療について

基本は安静ですが、細菌感染を合併している場合は抗生剤を使うこともあります。また、肝機能障害を認める場合は肝庇護薬を服用します。

慢性扁桃炎

急性化膿性扁桃炎を定期的に繰り返し、発熱や喉の痛みを繰り返します。その都度急性扁桃炎の治療を行いますが、年に3、4回以上反復する場合は口蓋扁桃摘出術が必要となる場合があります。

【図8】慢性上咽頭炎

【図8】慢性上咽頭炎

慢性上咽頭炎

鼻腔の後方に位置する上咽頭にて慢性的に炎症が起きると、のどの違和感、肩こり、頭痛および倦怠感が出現したりすることがあります。また、上咽頭炎の炎症が原因で腎臓、皮膚、関節に炎症を引き起こす「病巣炎症」という状態になることがあります。これらは、上咽頭に存在する免疫細胞が非常に活性化されやすく、これらの細胞が産生する炎症物質(サイトカイン)が血流に乗って遠く離れた組織で炎症を引き起こすためと言われています。また、自律神経の調節異常も起きやすく、めまい、嘔気、うつ状態を引き起こすこともあります。

治療について

原因により抗生剤や粘膜に対する抗炎症作用薬などを服用します。
所見・症状によっては、当院にてBspot療法なども行っております。

Bspot療法(EAT治療)について

慢性的に炎症を起こしている上咽頭に、1%の塩化亜鉛液を染み込ませた綿棒を鼻とのどから擦りつけるEAT治療 (Epipharyngeal Abrasive Therapy: 上咽頭擦過治療)が有効とされています。別名「Bスポット療法」とも呼ばれています。
塩化亜鉛による収斂作用により炎症が鎮静化され、うっ血状態が改善されることで自律神経もゆっくりと調節されるようになり様々な症状が改善していく方を認めます。ただし、この治療で全てを解決できるわけでありません。
特に上咽頭に痂皮が付着する方では内服なども併用して長期の治療を必要とすることが多いです。

【図9】Bspot療法(EAT治療)について

【図9】Bspot療法(EAT治療)

咽喉頭異常感症

のどの異物感や圧迫感といった「喉の痛み」、「喉のつかえたような症状」を認めるも、特に内視鏡所見で異常を認めないものを咽喉頭異常感症と呼びます。
原因には下記のように様々なものがあります。

のどや鼻の慢性炎症 慢性咽喉頭炎、慢性扁桃腺炎、上咽頭炎、舌根扁桃炎、膿栓、性感染症、副鼻腔炎
アレルギーによるもの アレルギー性鼻炎、喉頭アレルギー
食道・胃の病気 逆流性食道炎、食道憩室、胃炎
頚椎の病気 茎状突起過長症、変形性頚椎症、前縦靭帯骨化症、強直性脊椎骨増殖症(Forestier病)、ストレートネック
甲状腺の病気 甲状腺腫瘍、甲状腺機能異常(バセドウ病や橋本病)
がんや腫瘍によるもの 咽頭がん、喉頭がん、食道がんなど
その他 ドライマウス、ヒステリー球(感覚障害)

当院ではこれらを綿密に精査し、原因別に治療を行っております。

味覚障害

味覚とは甘味、苦味、酸味、塩味、旨味という5つの「基本味」を言います。この味覚感度が低下したり、味を感じなくなったりすることを味覚障害と呼びます。何を食べても不味くなる、口の中でいつも苦味を感じるといった症状もあります。
味覚障害の原因には下記のようなものがあります。

舌・口腔 舌炎:熱いものを食べた際の火傷、歯による創傷、ウイルス・細菌・カビによる感染などで起きます。
ドライマウス:多くが年齢性ですが、薬剤性、糖尿病性、放射線治療、自己免疫疾患(シェーグレン症候群)の合併症などもあります。
全身疾患
糖尿病:
神経障害により味覚の低下が起こります。
腎不全、内分泌低下:
腎臓や内分泌の機能低下により亜鉛の排泄量が増加し体内の亜鉛量が不足するために起こります。
鉄欠乏:
鉄が欠乏することで舌が赤く平らになり、痛みを生じます。
顔面神経麻痺 味覚に関係する神経が一緒に麻痺することがあります。
慢性中耳炎 味覚の神経の一つである鼓索神経が障害され起こります。
脳神経障害 脳梗塞や脳出血後に味覚の中枢が障害を受けることがあります。
鼻の病気 蓄膿症やアレルギー性鼻炎にて嗅覚が低下し、風味障害が起こります。この場合は、味覚自体は残っており、甘味や塩見はわかりますが、細かい風味が分からなくなります。

治療について

基本は口腔、舌の消炎、保湿および味覚の神経細胞の再生を目的とした治療を行っていきます。原因によっては追加でそれらの治療を行っていきます。

【図10】声帯結節・声帯ポリープ

【図10】声帯結節・声帯ポリープ

声帯結節・声帯ポリープ・声帯嚢胞

声帯に炎症が起き、声帯の一部もしくは全体が隆起することで、かすれ声や声が出しにくくなる病気です。

声帯結節は声帯の粘膜がペンダコのように厚くなることで起こります。通常両側の声帯に小さな隆起ができます。
声帯ポリープは主に粘膜下の組織がアロエのように水ぶくれになっている状態です。ヘビースモーカーの方に多く、薬物ではなかなか治癒できず手術になることも多いです。
声帯嚢胞は粘膜下に粘液がたまった袋(嚢胞)ができて徐々に大きくなります。嚢胞は保存的治療では消失せず、手術での切除が必要となります。

【図11】声帯萎縮

【図11】声帯萎縮

声帯萎縮・溝症

声帯がやせて細くなっているために、声がかすれてしまう病気です。声帯萎縮は主に声帯筋が痩せるため生じることが多く、声帯溝症は粘膜下のヒアルロン酸が減少し声帯の表面が凹んだように見えます。これらの病気は加齢や声を使わないことにより生じます。

治療としては、声帯の筋肉を再び増やすために音声機能リハビリテーションを行います。

唾石症

唾液腺の中や導管の中に石(唾石)ができてしまう病気で、ほとんどが顎下腺もしくはその導管に生じます。食事の際に顎の下が腫れたり、痛みが出たりするなどの症状があります。
急性期では抗生剤や抗炎症剤を投与し、CTにて唾石を確認します。導管内であれば当院では外来にて唾石を摘出します。唾液腺の中に唾石を認める場合は、顎下腺ごと唾石を切除する必要があります。

咳(咳嗽)について

耳鼻科で対応している咳の原因には下記のようなものがあります。

  • 感冒後咳嗽
  • 鼻炎・副鼻腔炎に伴う咳嗽
  • 咳喘息
  • アレルギー咳嗽
  • 逆流性食道炎によるもの
  • 喘息
  • 心因性咳嗽
  • 百日咳やマイコプラズマ感染症によるもの

当院では様々な検査を通してこれらの咳(咳嗽)の原因診断を行い、それぞれの原因にあった治療を行っており、その効果には定評があります。