耳の手術 Ear surgery
慢性中耳炎の手術治療について
- ①慢性中耳炎で鼓膜に穿孔があり、聞こえが悪い。
- ②耳漏を繰り返し、なかなか止まらない。
- ③真珠腫性中耳炎のため、難聴が進行し合併症を起こす危険がある。
こういった病状・症状を認める場合に手術が必要になります。
慢性中耳炎の手術には内視鏡下に手術を行う方法と顕微鏡下に手術操作を行う方法があります。それぞれメリットとデメリットがあります。
内視鏡下手術 | 顕微鏡下手術 | |
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メリット |
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デメリット |
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【図1】内視鏡・顕微鏡
病巣範囲が広い真珠腫性中耳炎には顕微鏡下鼓室形成術を行いますが、近年こういった病変のひどい真珠腫性中耳炎は少なくなっております。
そのため、当院では鼓膜穿孔や耳小骨の連鎖異常を認める慢性中耳炎、病巣が大きくない真珠腫性中耳炎に対し、ほとんどの症例で経外耳道的内視鏡下耳科手術(TEES)を行っております。
TEESでは内視鏡下に鼓室形成術を行っていきます。
鼓室形成術について
中耳(鼓室)内に病変がある場合に鼓室形成術という手術方法が適応となります。中耳の病変には鼓膜穿孔や耳小骨の異常などがあり、その程度によって以下のような3つのタイプの手術を行います。
鼓室形成術Ⅰ型
耳小骨に病変が及んでいない場合に適応となります。耳小骨は温存して中耳(鼓室)や乳突蜂巣の病変の除去を行います。鼓膜穿孔があることが多く、同時に鼓膜の再建も行います。
耳の後ろを2cmほど切開し、皮下にある「筋膜」という組織を採取します。鼓膜の穴の辺縁に新鮮な傷をつくり、採取した筋膜を鼓膜の裏側から貼り付けます。
最後にフィブリン糊という生体接着剤を利用して筋膜と鼓膜を接着させます。内視鏡下に行うことで、死角のない高精細な画像で鼓膜の再建を行えることができ、当院の鼓膜穿孔閉鎖率は現在のところ9割を超える成績となっております。症例によっては薄い軟骨を用いて鼓膜の穴を塞ぐ方法もあります。
【図2】鼓室形成術Ⅰ型の手術方法
鼓室形成術Ⅲ型
耳小骨に病変が及んでいる場合に適応になります。
耳小骨のうちツチ骨やキヌタ骨を切除し、残したアブミ骨と鼓膜の間をコルメラと呼ばれる構造物でつなげます。
コルメラの材料として骨や軟骨を使うことが多いですが、骨の場合鼓膜から外に出てきてしまうことも多く、当院では軟骨を使うことが多いです。
このコルメラにより鼓膜で拾った音の振動がアブミ骨に伝えられ、聴力の改善度も良好な場合が多い手術法です。
【図3】鼓室形成術Ⅲ型の手術方法
鼓室形成術Ⅳ型
耳小骨のうちアブミ骨にまで病変がおよび、アブミ骨が残せない場合に適応となります。
アブミ骨が内耳に接している底板という部分が残っていることが多く、その底板と鼓膜の間をコルメラと呼ばれる構造物でつなげます。
当院では生体親和性が高く音の伝導性も高いハイドロキシアパタイトを主成分とした人工耳小骨や、耳介より採取した軟骨をコルメラとして使用することが多いです。
アブミ骨に病変が及んでいることもありⅢ型より改善率が低いですが、底板の可動性や人工耳小骨と底板のつながりが良ければ聴力改善はかなり望めます。
【図4】鼓室形成術Ⅳ型の手術方法
真珠腫性中耳炎の手術治療について
鼓膜の一部が中耳腔に迷入し炎症を起こしている真珠腫性中耳炎を手術する際、中耳や乳突洞に入り込んでいる病変をきれいに取り出す必要があります。また、耳小骨が破壊されている場合は耳小骨の再建が必要になります。
病変が軽い場合
「慢性中耳炎の手術治療について」にある鼓室形成術Ⅲ型を用いて病変の除去と耳小骨再建を行うことができます。
可能な限り内視鏡操作にて病変を除去し耳小骨再建を行います。
外耳道の骨壁が一部欠損している場合は軟骨を用いて外耳道再建を行います。
【図5】真珠腫性中耳炎の病変が軽い場合の手術方法
病変が奥まで進んでいる場合
病変の除去を行う際に「慢性中耳炎の手術治療について」にある鼓室形成術Ⅲ型や鼓室形成術Ⅳ型を用いる以外に乳様突起削開術を一緒に行います。
この手技の場合は顕微鏡を主に用います。
顕微鏡を用いて外耳道や乳突洞を大きく削開して一体化させ、内部の病変をきれいに除去します。
その際に外耳道を大きく拡げ過ぎたまま留置すると、のちに耳漏を繰り返すこともあるため、当院ではsemi-openという方法をとることが多いです。
この方法では、大きく拡げすぎた部分に軟骨や骨片、人工骨などを用いてもともとの形に近い外耳道を再建します。ほか、外耳道が拡がり過ぎないため、耳漏を繰り返しにくくなります。