鼻中隔の手術 Nasal septum surgery

鼻中隔弯曲症の手術治療について

鼻中隔は軟骨や骨でできており、前方は鼻中隔軟骨、後上方は篩骨垂直板と後下方は鋤骨があり、それぞれの骨が成長しすぎて歪みが生じることで弯曲(曲がり)が生じています(図1)。

【図1】鼻中隔の構造

【図1】鼻中隔の構造

【図2】鼻中隔弯曲の種類

【図2】鼻中隔弯曲の種類

鼻中隔の弯曲は基本的に骨や軟骨の曲がりによるもので、薬物治療で曲がりは改善されません。そのため、症状が良くならない場合、手術による弯曲の改善が一番効果を期待できます。
鼻中隔の手術をする際は同時に下鼻甲介という部位の手術や後鼻神経切断術を同時に行うことも多いです。
粘膜を保存する手術ですので鼻の機能が温存され出血も多くありません。
一般的に鼻中隔の中央部が弯曲の主体となっているパターンが多いのですが、鼻中隔の前端部が曲がっていたり、鼻背(鼻すじ)が変形していたりすると手術の難易度が上がります(図2)。

鼻中隔弯曲症の手術方法

当院では、鼻中隔の弯曲部位や鼻背(鼻すじ)の変形の有無などにより、鼻中隔矯正術、Hemitransfixion approach(HTF法)、Open Septorhinoplasty法(OSRP法)の3つの術式から手術方法を選択していきます(図3)。

【図3】鼻中隔弯曲症の手術方法

【図3】鼻中隔弯曲症の手術方法

鼻中隔矯正術

一般的な鼻中隔弯曲症ではこの手術が行われます。
この手術では全ての手術操作が鼻の中で行われるので外に傷はつきません。また、見た目の鼻の形も変わらない手術となっています。
この手術単体の手術時間は10分から30分程度です。

【図4】鼻中隔矯正術手術の流れ

【図4】鼻中隔矯正術手術の流れ

  • 鼻中隔では真ん中に薄い板状の骨や軟骨があり、これらの骨や軟骨が曲がることで鼻中隔弯曲症となります。また、骨や軟骨を粘膜がはさんでいるサンドイッチのような構造となっています。
  • 鼻中隔の凹側の粘膜を軟骨や骨から剥離します(図4b)。
  • 凸側の粘膜を軟骨や骨から剥離します。一番弯曲が強い部分は剥離せず(図4c)、骨を切除する際に同時に剥離を行います。これにより鼻中隔の粘膜に穴が開きにくくなります(図4d)。
  • 弯曲している部分の骨を切除します。軟骨はできる限り残し、矯正することで弯曲を治します。
  • 最後に剥離した粘膜を元に戻し、鼻中隔弯曲が改善された状態となります(図4e)。

鼻中隔手術の重要なポイント

安全に手術を行うための、当院での重要なポイントをいくつかご紹介します。

【図5】鼻中隔のkey stone area

【図5】鼻中隔のkey stone area

  • 鼻中隔軟骨、篩骨垂直板及び鼻骨が接合する部位はkey stone areaと呼ばれ(図5)、この部位の接合部が壊れてしまうと鞍鼻(あんび)と呼ばれる手術後の鼻すじの変形が起きてしまいます。そのためこの部位はより慎重に操作する必要があります。
  • 鼻中隔軟骨と上顎骨の接合部が弱くなると鼻筋の先端部が変形してしまうことがあるため、当院では第二のkey stone areaと考えています。この部位もより慎重に操作する必要があります。
【図6】鼻中隔矯正術の手術方式の変遷

【図6】鼻中隔矯正術の手術方式の変遷

  • 鼻中隔軟骨は曲がっているところを広範囲に切除している時代がありました(Killian式)。しかし、この方法では将来的に鼻筋が落ち込む危険性があり、一旦切除した軟骨を再挿入する高橋式が行われていました。近年はより鼻中隔軟骨を温存し、弯曲した軟骨に切れ目を入れて矯正するWodak式を行っております(図6)。
  • 好酸球性副鼻腔炎など嗅覚障害を起こす疾患を持つ場合は、嗅粘膜がある部位の骨を温存する保存的切除を行っています。これにより、度重なる炎症により鼻中隔に穴ができ嗅覚が低下するのを防ぎます(図6)。

ボクシングやバレー、バスケットなど鼻をぶつけやすいスポーツを行う際は、鼻中隔の手術により強度が低下することが心配されますが、近年は可能な限り骨組織を温存して矯正する手術となっており、以前ほど心配はないように思われます。また患者様の弯曲の程度によりますが、弯曲している部分を可能な限り最低限だけ切除・矯正させる部分切除術という方法もあります。詳しくは当院にご相談ください。

Hemitransfixion approach(HTF法)

一般的な鼻中隔矯正術では粘膜の切開線が鼻中隔軟骨の約1cm以上後方にあるため、鼻中隔の一番先端が弯曲している場合に弯曲を矯正することができません。
このHTF法では、鼻中隔軟骨の一番先端部に切開線があり、鼻中隔の一番先端の弯曲に対し手術操作を行うことができます。見た目の鼻の形の変形は起こさず鼻中隔の曲がりだけを改善させます(図7)。
切開は鼻の中で行い外に傷はつきません。
鼻中隔軟骨の先端部の曲がり方により、anchoring sutureやbatten graftといった方法を用いて軟骨を矯正することができます(図8)。
この手術単体の手術時間は30分から60分程度です。

【図7】Hemitransfixion approach(HTF法)

【図7】Hemitransfixion approach(HTF法)

【図8】軟骨の矯正方法

【図8】軟骨の矯正方法

Open Septorhinoplasty法(OSRP法)

鼻閉の改善以外に、外鼻(鼻すじ)の変形を矯正する必要がある場合にこの手術を行います。
美容目的のみの手術では保険の適用はなく、緊急性の鼻骨骨折があり、鼻閉が主訴の場合に保険適用での手術となります。
鼻の穴の間にある柱部分を逆V字型に切開し、それ以外は鼻の内側で左右に向けて切開していきます。鼻の形を作る鼻翼軟骨、外鼻軟骨及び鼻中隔軟骨などを露出させ、一旦分離したあとbatten graftなどの軟骨を用いた矯正を行い鼻すじを整復します(図9)。

【図9】Open Septorhinoplasty法(OSRP法)

【図9】Open Septorhinoplasty法(OSRP法)